借金10億円から黒字経営かつ週3休業へ、元湯陣屋の旅館改革はなぜ成功したのか? 

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本記事は、日本CHO協会主催のオープンフォーラム「鶴巻温泉 元湯陣屋の旅館改革は何故成功したのか」の内容を書き起こしたものです。(全2回)

陣屋を数字で見ると?

まずは、陣屋グループの現在のビジネス領域をご紹介させてください。私どもは宿泊業がメインになりますが、それ以外にも日帰りと婚礼、そして「陣屋コネクト」のほか、現在は「JINYA EXPO」という新しい事業を含めて5つの事業を展開しております。「陣屋コネクト」は私どもが自社開発した情報管理システムで、そのアプリケーション販売もさせていただいておりますので、実は旅館でありながらIT企業の側面もあるという企業になります。

いくつかの数字をご紹介しますと、まず、旅館である「元湯 陣屋」は創業が大正7年。今年2018年で創業100年を迎えました。敷地面積は約1万坪で、宿泊客室数は18室、宴会場は6室という施設です。年商はただ今ご紹介しました5事業によるグループ全体の売上から「陣屋コネクト」のアプリケーション販売を除いた旅館単体で5.6億になります。

そして宿泊営業日ですが、実は木曜日から日曜日までの週4日しか今は営業しておりません。月・火・水はお休みをいただいております。ただし、月曜日は日曜日に宿泊いただきましたお客さまのご朝食とチェックアウトがありますので、ランチタイムまで半分ほどのメンバーで営業する形になっております。

このほか、日本企業は経常利益率を見ることが多いと思いますけれども、宿泊業ではEBITDA率(利払い前・税引き前・減価償却前利益率)を重要視することが多く、私どももこれを重要なKPIとしています。こちらが30%。そして、宿泊料金は35,000円からとなっておりますが、実際には、お1人さま当たりご利用いただく宿泊客単価が現状で5万円となっております。また、自己資本比率は50%になります。

従業員数は正社員30名とパート15名で45名。昨年は40名でしたが、ありがたいことに新入社員がこの春入社致しまして45名体制となりました。社員の平均年齢は、新入社員が入社したこともあって昨年よりさらに若くなって30歳。そして離職率は3%で、平均年収が400万円となっております。

この平均年収は世間一般の水準に比べると、正直、低いかと思います。ただ、実は経産省さんが毎年発表している業種別年収ランキングで、ホテル・宿泊業は残念ながら最下位レベルなんですね。250万円ほどになります。東京オリンピック・パラリンピックが近いのでここ1~2年で若干、20万円ほど上がったかなといった状況ですが、いずれにしても、その業界水準と比べると当グループの平均年収は比較的高いという状態になります。

初任給は高卒、専門卒、短大卒、大学卒までが一律25万円からのスタートとなっています。また、労働生産性は1人あたり年間1250万円程度となっていまして、こちらも宿泊業全体の平均値である470万円を大幅に上回っております。

ITシステムを販売している「陣屋コネクト」に関しても、いくつか数字をご紹介させてください。創業は2012年で、現在導入していただいている施設さまの数は全国でおよそ300。年商は1.6億ですが、そのうち1.5億をアプリケーション開発に投入しており、早いペースでの進化を目指しています。自己資本比率は42%。従業員数は営業・サポートが5名、そして開発がシステムエンジニアとプログラマー合計で18名となっています。

借金10億円からのスタート

さて、「元湯 陣屋」についてもう少し詳しくご説明しますと、実は昭和初期から囲碁・将棋の対局で300局以上、貴賓室をお使いいただいておりました。そして、この1万坪の庭園内に18の客室と6つのレストラン・宴会場などを持つ陣屋旅館を、2009年10月に主人と私が継承したという流れになります。ただ、当時は売上2億9000万円に対してEBITDAがマイナス6000万円で、借入金は10億円。売上に対して借入金が3倍以上という異常事態に陥っていて、正直、継ぎたくて継いだわけではないんですね(笑)。

当時は(先代女将の)義母が体調を崩してしまって、その前年には義父が他界したため、経営者が不在になってしまっていました。それを放ってくわけにはいかないということで、突如継ぐことになった次第です。前職を退職するまでの決断に2週間程度しかなかったこともあり、なんの準備もできず、なんの前触れもなく生活が一変しました。いずれにせよ、そうした経営状況でしたから短期間での業績改善が求められていました。

では、当時素人の私たち2人がどんなことを考えたか。売上をアップさせて経費を削減しなければいけないことは分かるものの、一体どこから手をつけたらいいのかと。そこで状況を分析してみると、まず顧客満足度を向上させなければいけないのは分かるのですが、お客さま情報は入院中の義母の頭の中か、すでに引退している伯母の頭の中にしかありませんでした。

また、団体向け営業も個人向け営業もどちらも必要でしたが、まず団体向けに関しても、営業担当者から週報や日報がコンスタントに上がってくるような会社ではなかったわけですね。ですから情報も担当の手帳のなかにしかなく、会社全体で共有されていませんでした。そして個人向けに関しても、当時はすでに多くの方がホームページをご覧になって宿泊を検討なさるような世の中でしたが、陣屋のホームページには予約システムもなく、予約サイトへのリンクも貼られておらず、個人のお客さまにも訴求できていない状態でした。

そもそもの問題として、私と主人を除くとパソコンを使えるのは1人だけ。しかも、「使える」と言いましても、普通にワードが使えるという方が1人だけという状況でした。まったくリテラシーのない環境だったんですね。

また、原価の管理は調理場に一任されていて、紙のノートで管理されている状態でした。そうしてKKD(勘と経験と度胸)を頼りに、「◯◯の値段はこんな感じ」という風に仕入れをしていたんですね。足りなくなることを恐れて少し多めに仕入れてしまう。でも、「そのちょっと多めに仕入れたものの行き先はどこなのか」「ロスが一体どこに消えたのか」といったことはまったく分からない状態でした。

一方、人件費に関してはどうだったかというと、当社は社員が20名でパートさん・アルバイトさんが100名。その100名も手書きのノート管理ですから、月が変わらないと前月の集計もはじまりません。だいたい3~4名で集計を行っても数字が出てくるまで2~3週間かかってしまう、と。ですから先月の人件費が何%だったかを算出しようとしても、「あと10日ぐらいで月が変わります」といった状態で、なんの対策を取ることもできない。「残念でしたね」で終わってしまうんですね。そうしたことを何十年も繰り返していました。

予実管理についても壁に大きな模造紙が貼られていて、そこに昨日の売上を書き込んでいくだけの状態。でも、その書くということ自体がルーチンワークになっていて、数字の意味についてはまったく考えていなかったんですね。昨年の昨日に比べて上がっているのか下がっているのかといったことも、考えたことがないような状況でした。

当時の宿泊プランはどうだったかというと、2005年頃は1泊2食付きを1万4000円ほどで販売していましたが、2009年頃はクーポン割引等々も流行りだした時期で、値引きをしなければなかなか売れない状態でした。なので、稼働率を維持したいがためにおよそ4000円を値引いて販売していた、と。ただ、値引いたところで受け入れ体制が変わるわけではありませんので、忙しいのにまったく儲からないという負のスパイラルに陥っていました。

当時、私どもが損益分岐点を計算したところ、1泊2食付きで3万円ほどの価格でないと採算が取れないという試算になりました。そんなわけで、もちろんいきなり値上げするのは難しいと思うんですが、ゆくゆくは「1泊2食付きで3万円程度をいただけるような宿にならなければ」と考えるようになりました。1万坪の敷地に20室しかない以上、単価を上げないと成り立たないという直感がありましたので。

そこで、私たちがシンプルに欲しい数字はなんだろうと考えてみると、それは稼働率ではなく、高付加価値・高単価ということでした。キャッシュさえ回れば、なんとかお店を存続させることができます。厳しい売上をなんとか積み上げた数字が欲しいわけではなくて、「手元に利益が残るクオリティの高い売上が欲しい」と。ですから、高単価で高い付加価値を提供する一方、低稼働率になっても気にしないという方向へ転換することに決めました。

事業を増やして安定経営を目指す

そして、「物語をつなぐ」という社是のもと、ブライダル事業もスタートします。実はどんなに業績が落ち込んでいる時期も、お顔合わせやご結納といったお席のご予約は年間を通じてコンスタントに承っていたんですね。それで、「ここに何か活路があるんじゃないか」といった思いがあったためです。

また、事業を増やしたかったという考えもあります。それまでは宿泊と日帰りの2本立てで長らく営業してきました。主人は前職がホンダのエンジニアだったこともあって、いろいろなことを車にたとえて従業員に説明するんですね。「1輪車より2輪車のほうが速く走れます。2輪車よりも3輪車のほうが安定して走行できます。3輪車よりも4輪車のほうが安定して高速に走行できます。ですから事業を増やしましょう。安定して高速に走行できる車のほうが、乗っている皆さんも安心できます」と。従業員の皆さまの生活にも関わってくるので、新しい3つ目の事業を立ちあげるために協力して欲しいという話をしていきました。

さらに「おもてなしの実験場」というものもはじめています。ホンダやトヨタやマクラーレンがF1に参戦するのはなぜか。過酷なレースを1年間耐え抜くことで、技術や人材、そして膨大な情報が蓄積されます。自動車会社はそうしたビッグデータのなかから量産型の自動車に少しずつ情報を落とし込んで、毎年発表する新しい自動車の性能も少しずつ高めていくということを繰り返しているわけですね。

「陣屋でもこれをやりましょう」と。具体的には、先ほど申しあげました囲碁・将棋の対局でご利用いただいている貴賓室をもっと活用しようと考えました。それまで貴賓室は本当に特別なお客さまにしかお使いいただいていなかったんですが、それではもったいないので、もっと活用して、実験場またはフラッグシップにしていこうと考えました。

従業員が120名いた理由は、従業員の方々がそれぞれ単一タスクで働く分業制だったから。「これだけしかやらない」という方がたくさんいらしたんですね。お客さまの満足度を高めるためにタスクを増やすと人も増えるということで、どんどん人数が増えていました。それをいずれマルチタスクに切り替えたいという思惑がありましたので、「貴賓室担当という方をつくりませんか?」と、従業員の皆さまに持ちかけました。持ちかけたというのはきれいな表現ですが、つまり、「やってください」と(笑)。

担当となった方は、貴賓室担当としてなんでもできなければいけません。お客さまをお迎えする人、夕食をご用意する人、お布団を敷く人、朝食をご用意する人、そしてお見送りをする人等々、今まではすべて違う人が担当していましたが、「それをすべて1人でやりましょう」ということにしました。そうして1人ですべてできるような方が増えたら、一般の客室担当の皆さんも少しずつレベルアップをしていくと考えたんですね。20室でいきなりやるのは難しいと思いますので、まずは「1部屋だけ、なんとかなりませんか?」という説得をしてスタートすることにしました。

4つの経営方針

当時の経営方針については、次の4つが重要だと考えました。まず1つは情報の「見える化」。それまではベテランの方になればなるほど、どうしても「このお客さまは私のお客さま」という思いが強くなってしまい、他の人に手出しをさせないケースがあったんですね。ですから、お客さま情報は個人所有でなく全体で共有できるようにしようと考えました。

次に、その情報を活用していただくこと。知っていても動かないことが多かったためです。今まで「余計なことをするな」と怒られたことがあったのかもしれません。だから、言われるまで絶対に動かない。そういう方がたくさんいました。それをなんとか変えていきたいということと、WebやSNSを通じて情報を発信していきたい、と。そうして情報をどんどんオープンにしていくことが必要だと考えました。

3つ目が、PDCAサイクルの高速化です。当時の陣屋には残念ながらPDCAという考え方自体が存在していなかったんですが、これを取り入れ、高速化して、月次管理から日次管理にしていきたいと考えました。

そして4つ目。仕事を効率化して、お客さまとの会話と接点を増やしたいと考えました。接客業だと思って飛び込んだ世界は、蓋を開けてみると1日の8割以上がバックヤードの業務に追われる状態だったんですね。それでお客さまに十分な対応ができていない状態でした。接客時間に関しましては一般の旅館とそれほどの差はございません。四六時中スタッフに来られても鬱陶しいと思いますし。

ただ、そのお客さまがどなたで、どういった目的でお越しになっていて、前回滞在時はどんな風に過ごしていただいたのか。そうした情報を知っているのといないのではお声掛けの言葉も変わりますし、サービスの対応も異なります。ですから、お客さまのことを知ったうえでお目にかかりたい。効率化によって捻出した時間を、お客さまについてお調べして、お迎えする時間に充てたいと考えました。

そのためにも、非効率な会議や朝礼・夕礼は減らしていきました。現在、陣屋には毎日の朝礼も会議もありません。朝礼では情報が末端まで確実に伝わらないんですね。電話が鳴ったりお客さまの到着時間がズレたりして抜けるスタッフも出ますし、たとえば朝礼で夕食に関する伝達をしても、まだその担当スタッフが出社する時間でなかったりということもありますので。また、メモを残すとしても、そのメモを取る人によって解釈が違ったりして、正しい情報が担当者に必ずしも伝わらないので、不毛な時間だなと思っていました。

ですから「朝礼は止めたらいいのに」と思っていましたが、当初はそれを提案しても怒られるだけだろうなと思い(笑)、我慢して出席していましたが。いずれにせよ、「止めましょう」と言うだけでは埒があきませんから、「そういうアナログな伝達手段をデジタル化するしかないな」と。そこで旅館経営を支える基幹システム導入が必要だと考えるようになりました。

デジタル化をどう進めるか?

では、そのシステム選定の要件は何かというと、まずお客さまの情報をお預かりするので、「信頼性」「セキュリティ」「プライバシー保護」が大変重要でした。また、資金ショートまで半年もないといった状況でしたから、とにかく「低価格」であること。高額な商品は購入できなかったので、使った分だけお支払いできる安価なシステムを探していました。

「拡張性」と「カスタマイズ性」も重要です。私自身は前職で東芝のリース会社におりましたが、たとえば当時はリースの情報システムですと、だいたい4~5年で減価償却を終えたのち、システムを入れ替えるケースが多かったんですね。そのときはテクノロジーの革新が早いこともあってOSも移行されます。ただ、そうなるとご利用いただいていたソフトウェアをそのまま乗せ替えることができないため、データを移し替えたりする必要があります。これ、システム会社以外は誰も得をしませんし、「これは自分が顧客の立場になったらいやだなあ」と思っていたところがあります。

ですから、陣屋のシステムは最新のOSやデバイスに即時対応できるものにしたいと考えました。また、当時はパソコンを使用できる方が1名しかいないような状況でしたから、サーバーのメンテナンスも外に出したいと考えていました。自社で抱えたくなかった。そこでクラウドに行き着きました。ただ、当時世の中で市販されていたシステムには自分たちが掲げるそうした要件を満たすものが存在していなかったこともあり、「合わない高額なシステムを我慢して購入するぐらいなら、自分たちで開発したほうがいいんじゃないか?」と。そこで自社開発の方向に進みます。

そして、このシステム開発にあたっても、「物語に、息吹を。」というコンセプトに基づいて開発をはじめました。システム名を「陣屋コネクト」としたのですが、こちらで何ができるのか。現在は、予約管理、顧客管理、社内SNS、設備管理、勤怠管理、会計管理、売上管理、そして経営分析ができるようになっています。陣屋の業務に落とし込みますと、お客さまからいただいた予約を管理して、当日を迎えます。そして翌日にチェックアウトして会計を締めます。現場の仕事はそこまでですね。

そこから先はIDとパスワードを持っていただいている会計士さんに経理をアウトソーシングしています。経理の仕事が完全になくなるわけではありませんが、従来に比べると1/4程度に圧縮されました。それまでは3~4名の常駐経理スタッフがおりましたけれども、今は担当のパートさんに1人、週3回、4~5時間勤務していただいている状態です。

また、旅館の運営に関してはホテルシステムと呼ばれる予約管理ツールがありますけれども、それだけではすべての業務をカバーできません。ほかにも、POSレジ、勤怠ソフト、グループウェアやSNS、顧客管理や営業支援あるいはマーケティングのツールも必要だったりします。ただ、そこで個別のツールを連結しようとすればするほどシステムの一元管理が難しくなり、最後はどうにもならなくなってExcelで処理せざるを得なくなるといったケースもあると思います。そうした形にしたくないということで、一元管理できることを目指して今も開発を続けています。

そのうえで現在は、かつてアナログでやっていたことをすべてデジタルに切り替えて運用しています。たとえば予約の予定表への書き込みも、昔は1ヶ月30枚つづりのA2用紙を1日分A4に書き直したうえでコピーして、それをスタッフに配るということを365日やっていました。今はそういったものが一切なくなっています。そうして最新情報を瞬時に共有することを大切にしていった結果、「言った・言わない・聞いていない」といったトラブルも解消されるとともに、組織の一体感も向上していきました。

AIとIoTできめ細かいサービスを提供

ここで、現在の陣屋の働き方をまとめた動画がありますのでご覧いただきたいと思います。

陣屋コネクトご紹介動画~活用シーン編

動画にはお出迎えの際にお車のナンバーを読み取っていたシーンがありました。これはIoTとAIを併用したシステムで、陣屋はすでにIoTもAIも実戦投入しています。新規でなく2回目以降のご来館となるお客さまに対応したサービスですね。

なんとかして、そうしたお客さまの満足度を高めるサービスがないかなと考えておりました。1回目のご来館で良いと思ったから次もご来館いただけるということだと思うんですが、そこでうまくいかないと、「あ、やっぱり思っていたのと違うな」で終わってしまいます。けれども、「あ、やっぱり来て良かった」という感想を持っていただくと、3回目や4回目につながりやすく、ファンになってくださる確率が一気に高まるためです。

店舗でのお買い物も同じだと思います。初めて訪れた店舗の商品がすごく良かったから「もう1回行ってみよう」ということで再び訪れたとき、やっぱり自分好みの商品があれば「このお店は自分に合うかもしれない」と、皆さまもお感じになると思います。そうした2回目のタイミングでなんとかファンになっていただく確率を高めるため、何か良いサービスはないかなと考えて、ナンバーの自動認識をはじめました。

昔、ホテルオークラさんには数万人の顧客を覚えていた「伝説のドアマン」と呼ばれる方がいらしたそうです。お客さまの車のナンバーを覚えていたんですね。それと同じようなことをしてサービスを提供できたら、お客さまも喜んでくださるのではないかな、と。ただ、私どもにはそれを覚えるだけの時間や労力がなかったため、そこをITの力でアシストできないかなと考えて開発したシステムです。

このほか、IoTはお風呂の管理でも活用しています。浴場の温度等を自動測定し、メンテナンスの最適化を行うシステムですね。まず浴場の入口には人感センサーがあって、何人のお客さまがお通りになったかをカウントしています。これがないときは、30分や1時間に1回、ゴミの回収やタオルの交換に行っていました。でも、お客さまがご利用にならないときはそれをする必要がありませんし、逆にたくさんの方がご利用になるときは、いつもよりこまめに行く必要があります。そうしたことを何回も点検しなくて済むようIoTを導入しました。

湯温に関しても温度センサーを利用しています。たとえば気温の低い日、一度にたくさんのお客さまがお湯に浸かりますと湯温が少し下がります。そこでセンサーによる温度情報をもとにメンテナンスを行うわけです。お客さまにとって最適な温度を保ちたいということから、こちらの仕組みを開発しました。

お出迎えについてもお風呂の管理についても、AIと組み合わせて運用しています。「〇〇様がご到着されました」「湯温が下がりました」「清掃に入ってください」といった情報がタブレット等のデバイスに届き、人工音声でイヤホンから聞こえるようになっています。こうした仕組みによって、少ない人数でもお客さまとしっかりコミュニケーションをとってサービスを提供できるようにしています。ですから、こうした業務のためのアルバイトさんをシフトに組み込んでおくといったことをせずに済んでいます。

では、このようなITを旅館に浸透させるポイントは何か。これは旅館業に限らず、小売業界をはじめいろいろな業界で同じかと思いますが、まずシステム導入を決めた方が積極的に使っていかないと、なかなか浸透は難しいと考えています。できれば経営者の方、またはそれに近い立場の方に旗を振っていただくのが一番良いと思います。

なかには社長さまが半年ログインしていないといったケースもありますが、できればトップの方からメッセージをどんどん、社内ツールを使って発信していただけるといいかなと思います。従業員の皆さまは、経営層からのメッセージを結構欲しがっていらっしゃるんですね。あるいは声を掛けてもらえないにしても、「自分のプロジェクトが進行の度合いぐらいは知っていて欲しい」ですとか、いろいろな思いがあります。そこで経営者の方々から発信していただけるといいなと思っています。

また、ログインしないと仕事にならないという業務環境を構築してしまうことも1つの手です。陣屋では勤怠管理をシステムへ組む込むことで全員参加を図りました。ログインをして出勤ボタンを押さないと給与が発生しませんから、70代のスタッフさんも頑張ってログインしてくださいます。最初はログインするのに20分ほどかかる方もいらっしゃいましたが、毎日毎日やっているとできるようになります。銀行のATMでお金をおろしたことのある方なら絶対使えるようになりますので、そこはご安心いただければと思います。

それと、使いやすいデバイスを自由に選択できるようにすることもポイントです。先ほどの動画にはiPad miniが出ていましたが、最初から決めていたわけではないんですね。陣屋では多種多様なデバイスを購入し、それを使ってもらって人気があるものを使うようにしました。あとはメディアや展示会でも積極的に露出および情報公開を行っていったことで、少しずつ定着していったという状況です。

さて、ここまでは「IT」のお話をさせていただきましたが、私どもは同時進行で、「料理」「施設・設備」「サービス・オペレーション」、そして「働き方」についても改革を進めてきました。この10年間は5つのプロジェクトを並走させてきた状態です。ここから先は林さまとの対談になりますが、「サービス・オペレーション」と「働き方」を中心にお話できればと思います。

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