『一流ビジネススクールで教える デジタル・シフト戦略』 ――テクノロジーで変革を起こすために必要なリーダーシップとは 

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テクノベートグロービス経営大学院では、2016年から「テクノベート」(テクノロジーとイノベートを組み合わせた造語)という名のもと、多くの新科目を開講している。これは、あらゆるビジネス領域でデジタル変革が進むなか、最先端のテクノロジーを理解し、イノベーションを起こすことができる新時代リーダーの輩出を目指すものだ。その科目開発をする過程で出会ったのが本書だ。テクノベートを推進する立場として共感する部分が多く、グロービスの研究チームが翻訳をさせていただくことになった。

本書は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のデジタル・エコノミー・イニシアティブのジョージ・ウェスターマンやアンドリュー・マカフィーらが、長年の研究結果を元に書き上げたデジタル変革時代のリーダー必携の手引書だ。伝統的な大規模な企業・組織が、デジタル変革を乗り越えるにはどうすべきか――本書は長年の膨大な研究結果を元に、この問いに対する答えを与えてくれる。

デジタルを経営に取り込むことに出遅れている日本企業は多い。自社には関係ない、単なる技術の1つだ、もうしばらく様子を見よう。そう思っているうちに、デジタルを活用した新たなビジネスが浮上し、競争力やポジションを失ってしまうのだ。

しかし著者はこう断言する。「どんな企業でもデジタルマスターになれる。本番を迎えるのはこれからだ」。まさに、今でしょ、というわけだ。ただそのためには、やるべきことがある。「デジタル能力」と「リーダーシップ能力」を磨くことだ。

本書ではデジタル技術を使ってきわめて高い収益性や生産性、業績を実現している企業をデジタルマスターと定義する。これらのデジタルマスターは「デジタル能力」「リーダーシップ能力」の2つの遺伝子を持つ。そして、それぞれの能力をどのように高めていけばよいのかの処方箋を豊富な事例と共に示してくれる。

注目したいのは、リーダーシップ能力だ。ここでいうリーダーシップ能力とは、デジタルビジョンを構想し、多くの社員を巻き込み続け、変化を導いていく組織能力のことだ。大企業では組織の慣性が働きやすい。特に、デジタルツールによって組織の透明性が高まると、自分たちの自律性が損なわれる、自分の役割が脅かされる、と抵抗する人たちも出てくる。そんな大企業で、どうすればデジタル変革を推進できるのだろうか。

その第一歩が「デジタルビジョン」だ。私は仕事柄、企業各社のビジョンに触れる機会が多い。残念ながらこれらのビジョンの多くは、本書が掲げるデジタルビジョンとは異なる。デジタルの未来を見据えた変革的なビジョン、社員の心をつかむような説得力あるビジョンが必要だ。皆さんの会社では、デジタルな世界で企業をどう変えていくのかがビジョンに織り込まれているだろうか。ビジョンを読んで、デジタル社会でも価値が発揮できるとワクワクするだろうか。

他にも、デジタルビジョン実現のための「巻き込み」、変革を継続させる「デジタルガバナンス」、ITと現場との関係を維持させる「デジタル・リーダーシップ」の3要素について、いかに構築すればよいかが、詳細かつ具体的に示されている。

デジタル変革やデジタル化の未来に関する書籍はたくさんある。その多くはデジタル技術や戦略寄りだ。本書は、様々なテクノロジーがもたらす変化を前提にしながらも、伝統的大企業がどのように「デジタル化」した戦略に転換し、そのために組織をどのように変えていくべきか、多くの組織内で生じている様々な困難とその原因を具体的に紐解いた上で、変革のステップを具体的に示している。事例の主人公は、新興企業やテクノロジー企業ではない。金融、製造、医薬品、サービスなどの大企業だ。

デジタル変革に着手しようという企業、今まさに推進している企業の経営者やリーダーはぜひ手に取っていただきたい。自社を振り返る機会にきっとなるはずだ。そしてイノベーションのジレンマから脱却しよう。

『一流ビジネススクールで教える デジタル・シフト戦略』
ジョージ・ウェスターマン、ディディエ・ボネ 、 アンドリュー・マカフィー (著)、グロービス (翻訳)、
ダイヤモンド社、3024円

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