新元号をフレームワーク思考で予想するとどうなる? 

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最近、「平成最後の」という言葉をよく聞くようになりました。「平成最後の紅白歌合戦」「平成最後の箱根駅伝」等です。すでに案内されているとおり、今年の4月1日に新元号が発表され、5月1日より実際に用いられる予定です。今回は、その新元号の候補について、やや頭の体操的ではありますがフレームワーク思考で検討してみましょう。

フレームワーク思考とは、物事を「枠組み」で考える思考法のことです。たとえば中途採用すべき人材の要件を「即戦力となる能力」「組織文化へのフィット感」「年俸の妥当性」といった枠組みで検討する、あるいは夫と離婚すべきか否かを「愛情」「経済の安定」「子どもへの影響」で判断するなどです。

フレームワーク思考は、物事をとりとめもなく考えることに比べると思考のスピードが速くなりますし、出てきた結論の説得力も高まります。たとえば先の「中途採用すべき人材の要件」について言えば、フレームワークで考えることで、より妥当性の高い人材を採用することにつながりやすくなるのです。そして、その結論はたとえば次のように表現することが可能です。これはクリティカル・シンキングで教えているピラミッド・ストラクチャーをインデントの形で示したものとなります。

【結論】Aさんを採用すべきだ
 -前職でのパフォーマンスも高く、スキル的には全く問題ない
 -自社とのカルチュラルフィットにも問題はない
 -年俸も折り合える範囲である

では、いよいよ新元号に話を移しましょう。ここでは、解決すべき課題は「新時代にふさわしい元号を決める」となります。ビジネスシーンにおける実際の問題解決(課題解決)では、既存の常識にとらわれないゼロベース思考も非常に重要なのですが、ここではほぼ常識化している「元号は漢字二文字。過去の元号(247個)は再度用いない。不吉な文字は使わない」などは所与の条件としましょう。つまり、「平成PartⅡ」や「夜露死苦」「安新ゲートウェイ」といった独創的なもの(笑)は除外するということです。

では元号の妥当性を考えるフレームワークにはどのようなものがありそうでしょうか。いろいろなものが考えられそうですが、ここでは(1)縁起がいい、(2)使いやすい、(3)不都合が小さい、(4)その他の違和感がない、の4つで考えましょう。そしてそれぞれはさらに一段階下位のフレームで考えることが可能です。たとえば以下の表のようなイメージです。

図1
自明のものもありますが、いくつかは補足しましょう。まず「1-b)音としても不吉さがなく、語感がいい」は、たとえば「壮義」では「葬儀」を連想させるためダメということです。死や苦をイメージさせる「し」や「く」と読める漢字も、一文字では使わない方がよいでしょう(組合せ次第ではありますが)。

「2-a)小学生でも読み書きできる」は、日本国民がみな元号を使うことを考えると非常に大事です。過去には「白雉(はくち)」や「霊亀(れいき)」といった元号もありましたが、現代では少なくとも、小学校の中学年以上が読み書きできない(あるいは間違いやすい)ような漢字は避けられるでしょう。ちなみに、明治以降の4つの元号は、すべて小学4年生までに習う漢字です(ただし、昭の字は、昭和を書けるようにするために4年生で習うようにしたという可能性もあります。なお、小学生が学年ごとに習う具体的な漢字は、「別表 学年別漢字配当表」をご参考ください)。

「2-b)総画数が多くない」も忙しい現代人にとっては重要でしょう。たとえばかつて「観応」という元号がありましたが、「観」はこれだけで18画になってしまいますので、おそらく採用されないでしょう。ちなみに、平成は全体で11画、昭和は17画、大正は8画、明治は16画です。これを考えると総画数の上限は20画未満がめどではないでしょうか。

「3-a)ローマ字の頭文字が、明治以降のM、T、S、Hではない」は書類記入やデータ管理のシーンなどでは非常に大切で、特に最近の元号の頭文字であるSやHになることはまずないでしょう。Nですら、HやMと間違いやすいので避けるべきという向きもあります。これはかなり強い制約になりそうです。ほぼノックアウトファクター(その項目について×なら、他の条件が良くても候補から除外される強い制約条件)といってもいいでしょう。

「3-c)漢字や音が他の言葉と紛らわしくない」もある程度は重要です(1-bと多少重なります)。たとえば「安」も「弘」もかつて元号に使われた文字ですが、「安弘(アンコウ)」では魚のアンコウのようですし、「弘安(コウアン)」は公安や考案と音もアクセントも同じです(実はすでに使われてもいます)。ただし、平成も音としては平静と同じでしたし、発表された当初は「平城京」の平城と紛らわしいなども意見もありました。これについては3-aほどの重要度はないと言えるかもしれません。

「4-a)安易に時代に流されていない」は、たとえば一般向けのアンケートではAIから連想した「栄合」などの案も出るそうですが、これは現在たまたま話題になっている言葉であり、数十年用いる元号には好ましくないといったことです。

「4-b)過去の元号と紛らわしくない、あるいは最近元号に使われた文字でない」は議論が分かれそうですが、たとえば安平(あんへい)は平安の逆の上に、前の年号である平成と一文字重なるため避けた方がいいということです。過去には「正和」と「昭和」のように読みが同じ元号もありましたが、これは避けられるべきでしょう。

「4-c)政治との距離感がある」も議論が分かれそうですが、個人的には意識すべきポイントと考えます。具体的には、時の総理大臣や権力者の名前に使われている文字を用いるべきか、といったことです。これについては後ほど具体例で検討しましょう。

ちなみに、この他にも「発表前にマスコミにスクープされたものは外す」というルールもあるようですが、現時点ではこの条件は割愛します。

元号の有力候補は?

さて、先の「小学生で習う漢字」を見ると、概ね1000字です。小学4年生までに限れば630字程度です。その中で元号に用いられそうな漢字は、ざっと見たところ概ね100個ほどでしょうか。その2文字の組み合わせはおよそ10,000通り(順序が逆も含む)になりますので、残念ながらすべての候補をここで精査することはできません。そこで、以降は現時点で識者の意見やアンケートなどで有力候補として挙がっているもの10個について、これまでの議論を踏まえ評価してみたいと思います。

<候補>
安久(あんきゅう)
安化(あんか)
和平(わへい)
文承(ぶんしょう)
建和(けんわ)
玉英(ぎょくえい)
永光(えいこう)
永明(えいめい)
光元(こうげん)
弘栄(こうえい)

こうしてみると、1-a、2-a、2-b、3-a、4-aは候補を選ぶ過程ですでにノックアウトファクターとして機能しており、それを度外視した候補はありません。1-cは、過去を遡れば多少こじつけ的なものもあり、その気になればどこかから見つけられそうですからこれも捨象して考えます。そこで残りの5つの項目、すなわち

1-b)音としても不吉さがなく、語感がいい
3-b)一般用語や、固有名詞とかぶらない
3-c)漢字や音が他の言葉と紛らわしくない
4-b)過去の元号と紛らわしくない、あるいは最近元号に使われた文字がない
4-c)政治との距離感がある

について、各候補を評価したのが次の表です。評価や重みづけはあくまで私見であることをお断りしておきます。

図2
最も重みづけが大きく、鍵となったのは「3-b)一般用語や、固有名詞とかぶらない」です。一般用語でもある和平もさることながら、特に固有名詞とかぶるものが少なくありませんでした。中国の過去の元号(建和、永光)、ウメの品種(玉英)、パンダの名前(永明)、多くの会社の名前(光元)などです。これらは、この項目については高い評価にはしませんでした。

悩ましいのは「4-c)政治との距離感がある」です。おそらく4月や5月の時点では安倍晋三首相が引き続き政権を担当しているものと思われます。そこに「安」という文字を入れることは、少なからぬ批判を招く可能性があります。筆者が仮に総理大臣なら、お手盛り感を避けるため、あらかじめ使わないように要望を出すでしょう。一方で、好ましい元号名であるにもかかわらず、たまたま時の首相の姓名にその漢字があるといって外すのはいかがなものか、という意見もあるかもしれません。非常に難しい判断となるでしょうが、ここでは慎重論を採用して「安」の字を含む候補の評価を下げました。このように、評価やそもそもの評価項目の重みづけは、通常一人ひとり異なりますので、実際には関係各位での慎重な議論が必要です。

結果として、一番の有力候補は「文承」となりました。文章と音は同じですが、アクセントは異なりますし、文脈上、混乱することもないでしょう。承は小学5年生で習う漢字ですのでやや低学年には難しいかもしれませんが、画数も少なくそれほど難しくはないのでこれも大丈夫でしょう。

二番目は「弘栄」です(「栄弘」でも大きくは変わりません)。これも企業名や男性のファーストネームと重なることはあるでしょうが、比較的マイナーなのでおそらく大丈夫でしょう。「安久」は「安」の字の取り扱い次第ですが、漢字の意味も語感もいいので、ひょっとするともっと上位の候補になるかもしれません。

このようにフレームワークで考えることで、思考のプロセスが可視化され、議論もしやすくなるのです。その結果として、結論の妥当性も高まります。

なお、今回取り上げ切れなかった有力候補は他にもありますので、他の候補で「文承」や「弘栄」「安久」に勝るものがないか、ぜひ皆さんご検討ください。

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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