顧客経験を分解して捉え、マネジメントせよ 

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顧客

先日改訂・発売になった『改訂4版グロービスMBAマーケティング』から「顧客経験価値の構成要素」を紹介します。

顧客経験価値マネジメントの大家であるバーンド・H・シュミット教授は、顧客経験価値マネジメントを「顧客と製品や企業の関係全体を戦略的にマネジメントするプロセス」と定義しています。彼は、これまでのマーケティングは顧客視点を謳いながらも、商品が主語であり、顧客が劣後していたと喝破しています。たとえばある商品に対する顧客満足の測定1つをとってみても、「この商品に満足しましたか?」という質問では、顧客の経験の文脈を捉えきれないのです。顧客の経験価値に注目が集まる昨今、まず顧客経験価値が何から成り立っているかを正しく把握することが第一歩となります。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇    ◇    ◇

顧客経験価値の構成要素

シュミットはSEM (戦略的経験価値モジュール)というフレームワークで顧客経験価値を説明でき、マネジメントできるとする。SEMは顧客の生活が、ある企業およびその商品群と持つタッチポイントで、どのような経験価値を生み出せるかを整理・解説したものである。以下に、その種類と内容を見てみよう。

●Sense:感覚的経験価値
センスとは、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感を通じて感じるものを指す。実際にはその感覚を味わっていなくても、美しいに違いない、良い手触りに違いない、美味しそうだ、というような感覚も含む。例えば、ティファニーのお店に行けば、「この指輪のデザインはティファニーらしい良いセンスだ」などと人は思う。この「××らしくて良いセンス」と思うことが、感覚的経験価値である。具体的な表現要素としては、視覚面では色、形態、書体、聴覚面では音量、調子、リズム、そして触覚面の素材と手触りなどである。これらが、ブランド戦略に基づく一定のテーマの下にスタイルを持って提示されることで、認知的一貫性と感覚的バラエティが生まれると、顧客は五感に響いてくる審美的な楽しみを得ることができる。

●Feel:情緒的経験価値
顧客が企業やブランドに対して愛着を抱いたり、感情移入したりするときに生まれる価値を指す。情緒的経験価値は気分と感情に分かれる。気分というのは、情緒的経験の中でも軽度な経験で、なぜそのような気分になるのか、理由が特定されていない状態を指す。例えば、今日は少し前向きな気分だな、機嫌が悪い、普通だ、といった何となく持っている感覚である。

それに対して感情は、はっきりと引き金や理由を特定できる情緒的経験を指す。これらの感情が生まれるきっかけを商品が生み出すこともあるが、人やイベントであることも多い。例えば、プロ野球の阪神ファンの人が、阪神が勝ったときに抱く情緒は感情である。情緒的経験価値にするためには、なるべくこの感情のレベルの動きを引き起こす必要がある。

顧客が最も情緒的価値を感じるのは、その商品を消費しているときである。ショッピングに出かける、バーで1杯飲む、映画を観に行く、旅行に出る、ドライブをするといったことはしばしば、好意的な情動消費活動が結び付いた状況を生み出すことになる。この場合は気分と感情、両方ともが情緒的経験価値になる。

情緒的経験価値は、サービスなどを受けている際に強く引き起こされる。デパートで洋服を買うとき、ただ試着をするよりも、店員から一言「このお洋服がお似合いですよ」と勧められたときの気持ちや、故障した商品を直してもらうときのサービス体験、ホテルやレストランでの接客体験を考えればわかりやすい。

●Think:創造的・認知的経験価値
顧客が深く創造的に思考した上で、企業やブランドに対する自分の評価を結論付けるのが、創造的・認知的経験価値である。考え方の内容によっては、古くなった仮説や昔の期待を覆してもらえ、パラダイムシフトを起こすことも可能な価値である。連想を促すような言葉に触発されたり、新しい知識を得ることで考え方を変えたりすると価値が生まれるわけだが、そうなるためには、顧客が驚いて興味・関心を示し、そのことについて自分で調べたくなることが必要で、そのときに企業やブランドが十分な情報を提示できることが決め手になる。

●Act:肉体的経験価値とライフスタイル全般で得られる価値
顧客が現実に体験したり、他者と接触したりすることでもたらされる価値を指す。いずれにせよ、何らかの行動をすることによって得られるものなので、体験をしてもらうための具体的な装置や、ストーリーがなければ、この経験価値を管理することは難しいだろう。一方で、管理の及ばないところでは、顧客がその商品を使っているときに常に体験されている価値であり、始終生み出されている価値であるともいえる。

●Relate:準拠集団や文化との関連付け
特定の集団の一員であったり、同じ文化を共有しているという感覚には経験価値がある。簡単に言えば帰属意識のことである。自身が、どのような社会的な自我を持っていて、どういったブランドコミュニティに所属しているのか。例えば、ハーレーダビッドソンの愛好者、アメリカン・エキスプレスのメンバー、といったような帰属意識を経験価値として定義する。

(本項担当執筆者:武井涼子 グロービス経営大学院教員)

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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